ハイパースペクトル(Hyperspectral Imaging)とは、光を非常に細かく分光することで、人間の目では評価困難な物性の違いや、見えない現象を可視化する技術であり、ハイパースペクトルカメラとはハイパースペクトルイメージングシステムを内蔵したカメラを指します。
ここでは、スペクトルについての基本から、ハイパースペクトルカメラの歴史、AIとスペクトルの違いなどを解説すると共に、当社のスペクトルテクノロジーが選ばれる理由をご紹介します。
【おすすめ記事】ハイパースペクトルカメラとは?
「ハイパースペクトルカメラ」とは、当社が2007年から発売している「内蔵スキャン型のハイパースペクトルイメージングシステム」を指します。
それまで、大掛かりで扱いづらい外部ステージスキャン方式※であったものを、スキャン機構をカメラに内蔵し、カメラ単体で分光情報を取得できるようにしたのが、その始まりです。
※現在も輸入商社が扱っているものの大多数はこの方式です。
EBAスペクトルテクノロジーが可能にすること
スペクトルを用いることで、非破壊・非接触で物質の特性や状態を評価・計測することができます。
物体が持つ固有のスペクトル(分光情報)を分析することで、人間の目では評価困難な物質の特性や状態を評価することができます。
例えば右図のように、人間の目ではまったく違いがわからない、樹脂、油、粉末の種類を識別することが可能です。 そのため、このスペクトル技術は、分野・業界を問わず、あらゆる場面で活用されています。
スペクトルとは?
光は波であり、粒子でもあります。
この波の周期(波⻑)の違いで、物体の色の見え方は変化します。
また、物体の特性や状態もこの波⻑を分析することで、解明することができます。
<光の性質>
光は波であり、粒子でもあります。光を波として捉えた時に、この波の種類に応じて、物体の色の見え方は変化し、例えば、可視光線の中で波の周期が⻑い光を赤色、短い光は紫色として、人間は認識します。(右図)この波⻑を分析することで、物体の特性や状態を解明することができます。
この波の周期の違いは、「波⻑」と呼ばれ、その波⻑の違いにより光の種類が区別されます。波⻑を表す単位は「nm(10億分の1メートル)」として表現でき、人間が見える可視光線は380nm付近〜780nm付近の領域を指します。
この波⻑を細かく分析する手法を「分光」と呼び、分光することで、物体の特性や状態を詳細に分析することができます。その分光によって分けられた光の要素は「スペクトル」と呼ばれ、分光分析はスペクトル分析とも呼ばれています。
<人間が光を捉える仕組み>
人間の目は「錐体細胞」と呼ばれるセンサーの役割をもつ視細胞により、可視光線を赤・緑・青(RGB)の3色に分けて光を認識しています。例えば、人間がイチゴを赤色と認識するのは、イチゴが青、緑の波長の光を吸収し、赤の波長の光を反射しているからです。
一般的なデジカメやビデオカメラも、この3色を合成することで、人間の目に似せた色データの取得を行っています。
ハイパースペクトルカメラとは?
ハイパースペクトルカメラとは、光を非常に細かく分光することで、
従来客観評価が難しかった物体の物質特性や状態を判定できるカメラです。
一般的に、人間の目やカラーカメラでは可視光線を赤・緑・⻘(RGB)の3色に分けて、光を捉えていますが、波⻑をより細かく分光することで、人間の目では評価困難な物性の違いや、見えない現象を可視化できます。
下図の車の赤色塗装の場合、カラー画像では全て赤色に見えますが、分光することで、解析画像のように評価困難な塗りムラが可視化されています。これは塗装の厚い部分と薄い部分に人間の目では認識できないほど微小な波⻑ごとの光の強度(スペクトル分布)の違いが存在し、それを評価している事例です。
このように波⻑を細かく分光し、連続した数多くの波⻑要素(約100以上)を取得できるカメラは「ハイパースペクトルカメラ」と呼ばれています。 人間の目やカラーカメラで取得するデータとハイパースペクトルカメラで取得するデータの違いは下図の通りです。
EBAスペクトルテクノロジーの特徴
選ばれる理由
01
国内で一貫した開発・製造・販売
国産メーカーとしてNo.1の納品実績
当社は、様々なスペクトルイメージング技術を自社にて研究開発し、特許取得、製造、販売、アフターサポートまでを一貫して行う国産メーカーです。
分野を問わず、官公庁様、企業様に数多く導入頂いており、国内No1の納品実績を有しています。
02
専門のスペクトルアナリスト®による
スペクトルアルゴリズムの開発
お客様のご要望を満たすためには、高度なスペクトルデータ解析技術が必要です。当社はハードウェアの開発だけでなく、ソフトウェアの開発にも注力しています。
専門のスペクトルアナリストにより、お客様のご要望に合わせた、スペクトル統計解析、検量線作成、アルゴリズム開発なども得意としております。
03
お客様の課題に合わせた
スペクトルソリューションのご提案
当社はハイパースペクトルカメラの販売だけでなく、お客様の「現場」の課題を解決するスペクトルソリューションもご提供しています。
インラインのスペクトル検査システム、ドローンからの空撮、人の生体情報を捉えるバイタルセンシングカメラなど、お客様の課題に合わせた専用カメラ/システムのご提案が可能です。
最先端の画像認識技術
AIを超えるEBAスペクトルテクノロジー
<AIとスペクトルの違い>
通常のAI画像は、RGB/モノクロベースの情報入力で、基本的に空間の特徴(形態特徴)を抽出します。そのため、AIによる画像認識の精度を高めるには、学習のための膨大な教師データを必要とします。
一方、スペクトルは光/電磁波と物体のエネルギーの相互作用を表し、物体固有のエネルギー振動を捉えているため、スペクトル画像は、空間情報だけでなく、撮影対象の固有のエネルギー情報も含んでいます。
つまり、従来のAI画像解析が対象の統計的な形態特徴しかとらえられないのに対し、スペクトル画像解析は、対象固有の特徴・物性(個性)を捉えることができるのです。
これにより、スペクトル画像解析では、スペクトル特性に基づく学習不要の解析や、少数の教師データによる学習で高精度の画像認識が可能となります。
EBAスペクトルテクノロジーは、RGBによる画像認識技術の限界を突破する技術であるとともに、AIの強みを活用しながらも統計に回収されずに、個別性に光を投じる、人間主導の未来技術です。
MEMO:ハイパースペクトルカメラの歴史
ハイパースペクトル技術は、元々リモートセンシング分野における、地球観測から生まれてきました。
1969年のCCDの発明を機に、分光情報を画像として計測する技術開発が進み、1980年代に、カリフォルニア工科大学のA.F.. Goetz (Science 1985)らよりハイパースペクトルカメラ技術が初めて提案され、まず航空機での実用化がなされました。
当初Imaging Spectroscopyなどの名称で呼ばれていましたが[1]、1990年代にブリストル大のGJ Brelstaff (Proc. SPIE 1995)らが「ハイパースペクトルカメラ(Hyperspectral camera)」という名称を使って以来[2]、現在ではより馴染みの良い本名称が一般化しています。
2000年代には、NASAの開発した地球観測衛星EO-1に搭載されたのを皮切りに、衛星リモートセンシングで実用化が進みました。
航空機や衛星に搭載する装置は大掛かりで高価であり、使用途が限定されていたのですが、近年のイメージセンサと、コンピュータ技術の急速な進歩により、小型で携帯可能なハイパースペクトルカメラの開発が可能となり、当社は、独自の内蔵分光スキャン技術を加えて、多くのお客様にご活用頂ける製品の開発に成功致しました[3]。
これにより、ハイパースペクトル市場の創出が大きく進み、当社は現在この分野のリーディングカンパニーとして牽引しております。
【参考文献】
[1] A.F. Goetz, et al.(1985) Imaging Spectrometry for Earth Remote Sensing. Science, 228, 1147-53.
[2] GJ Brelstaff, et al.(1995) Hyperspectral camera system: acquisition and analysis. Proc. SPIE, 2587, 150‒159.
[3] Y Takara, et al.(2012) Remote sensing applications with NH hyperspectral portable video camera. Proc. SPIE, 8527, 85271G.